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第12回 フクザツな気持ち

【森 慶太】
1966年静岡県生まれ。
筑波大卒。
自動車雑誌編集部を経て96年からフリーランスに。
著書に、「乗れるクルマ、乗ってはいけないクルマ」(三笠書房) 「『中古車選び』これだけは知っておけ!」(三笠書房)など。



どこよりも早い新型アヴェンシス情報


写真の17インチは欧州ではオプション装備。標準は16インチで、乗った感じは本当はそっちのほうがいいという。タイヤに関してモリケータ的にいちばん印象的だったのは、日本向けのトヨタ車が履いてる「縦バネが柔らかくて納入コストが安ければあとはナンでも」みたいなクソタイヤじゃないタイヤを履くとクルマの印象がいかによくなるかってことだった。ちなみに装着銘柄はダンロップSP3000。

 トヨタからアヴェンシスっていうクルマが出たんです。ていうか、これから出るんですたしか秋頃に日本では。英国工場で生産して欧州で売っている、アルファでいうと156級。輸入車ですよつまり。その先行試乗会みたいなのが日本で開催されて、私モリケータも行って乗ってまいりました。ホンの3、4日前の話なんだけど、インターネット・ホームページならではの速報だなってことで書こうかなと。せっかくですから。

 いわゆるエンバーゴ、●月×日より前に刊行ないしアップされる媒体には載せないでね、っていうのは今回たぶん大丈夫だと思うんで。トヨタから別に注意とかなかったし、だいたいすでに売ってるクルマだしねえ。欧州では。

 えーさて。これは私の勝手な推測だけど、従来トヨタはこのクラスの欧州向け商品としてぶっちゃけた話コロナに毛の生えた程度の(要するになんともサエない)クルマを売ってたんだと思う。ちょっと前はカリーナEという名前で、続いて最近はアヴェンシスという名前で。プラットフォーム的にも基本的には同じもんだったし。

 それではイカン! ということになったんでありますよきっと。なぜなら、たとえば北米でカムリがバカ売れしているみたいには(全然)売れなかったから。信頼性が高い、ってだけでは欧州ではやってけない。

 なお参考までに、欧州でのトヨタのメーカー別シェアは現状だと3%とか4%あたり。簡単な話、日本におけるそれの10分の1レベル。シェア命のトヨタとしては、とうてい黙ってらんない数字ですよこれは。

 で、イッパツ気合入ったのを作ろうぜと。それでもって、2005年までに欧州でのメーカー別シェアを5%までもっていこうぜと。欧州のこのクラスは日本でいうとクラウン級のありがたみがあって、つまり利幅的にも相当オイシイし。と、そういうことで出たのがこんどのアヴェンシス。この3月に発売されて、どうやら評判は好調。2005年にシェア5%、80万代/年の目標は前倒しで達成できそうな感じらしい。

 と、ここまではまあ別に意外ではない。モリケータ程度のレベルのアタマで考えても十分想像つく筋書きですよ。「そんなこといって、どうせこんどもまたフツーのトヨタ車でしょうに」ってタカをくくっておりました。当初は。なんだけど、海外のクルマ雑誌(ほかの言葉はわかんないから英語ですね)を読むと新型アヴェンシスは評判がいい。それも異様に。簡単にいって、「こんどのアヴェンシスはいままで(のトヨタ車)と違うぞ」っていう手応えがビンビンわかる感じの評価をされていた。

 だもんで気になってはいたわけです。アヴェンシス以前にもあのヘロヘロな走りのヴィッ ツが欧州現地生産モノ=ヤリスでは別モノのようになっている、かどうかはまだ確認できてなくて、それとトヨタ車じゃないけれど旧型マーチ=マイクラの英国生産欧州仕様はレンタカーで乗ったらけっこう別モノだったというのを経験してたりもしたんで。

呼ばれなくても参加した試乗会

 そしたら今回の事前試乗会ですよ。実をいうと私は呼ばれてなくて(大トヨタからは相手にされてない)、知り合いの某編集者から「行ってきたよ」って電話できいて知ったんだけど。「行ってきたよ」だけじゃなくて、「たしかにいままでのトヨタ車とは違うよ」とか「あれ、イイと思う」なんて話も聞いた。聞いたんで、ナラバとトヨタ広報部に電話して、「行ってもいーすか?」ってオネガイしてオジャマした。ほかのクルマだったら別にどうでもよかったけど、つまり新型アヴェンシスにはそのくらい興味があった。アテンザとかレガシィとか同クラスの日本車に本格派サルーンが出てきているという状況もあるし。余談ながら、試乗会場は昨今話題のスパウザ小田原。労働者が汗水垂らして働いて稼いだカネをクソ役人がピンハネして作った搾取無責任御殿ホテル。ま、それはともかく。

 乗ったらアヴェンシス、たしかに私の知っているトヨタ(のセダン)とは違った。居住空間のカタチや運転姿勢のマトモさあたりは日本向けトヨタ車から想像できる範囲内としても、たとえばシート(前席)が異様にマトモ。サイズがたっぷりしてるうえにリクラインやハイトの調整機構も別モノで、なにより掛け心地が濃い。充実している。ムッチリ締まったなかにしっかりとクッションのたわみもあって、たとえるならアルファ147と新型ベクトラの中間ぐらいの感じでイイ。「オッ」と思ったと同時に、「なんでガイジンにだけイー思いさせんだよ!?」っていうのもあった。「プレミオやカルディナ買った人が乗ったら怒るよこれ」とか。

 あと走りですね。どこがといって、特にここがスゴかったのよアヴェンシスは。 より具体的には、異様にゲンカイが高い。というか高そう。だって、ちょっとコーナー攻めたぐらいじゃロクにロールもしない。ほとんどナニゴトも起きてない感じなんだけど、「それにしては横Gが異様に高いぞ」みたいなブキミなオドロキ。 AE100系のレビン/トレノ(特にスーパーストラットのついたスーパーチャージャーのヤツ)や最近だとセリカの速いヤツなんかと共通するキャラクターで、でもセダンでこういうのは初めて。

 ただし新型アヴェンシス、ハンドルちょっと切っただけでパッカーン!て曲がるとか乗り心地がカッキンカッキンにイタいってことは別にない。もちろんかなりバネ定数は高い感じなんだけど(レガシィの18インチでもこんなにすごくないぞと思ったぐらい)、そこらのジャーナリストの先生がたに「締まっていて不快ではない」ぐらいのインプレは書いてもらえそうなレベルには“いわゆる”快適さを確保してある。たとえば、突き上げのピーク加速度はよく抑えてあるなとか。あるいは、そのわりにブッシュだけヘニャヘニャにしてゴマカシてる感じもないなとか。


トヨタの考える〈いい走り〉


先頃ウィッシュ(あーやだ)に追加されたのと同じ2.0の直噴ガソリン。最大の話題は、インチキなリーンバーンをやめてストイキ噴射にしたことでしょう。当然のことだけど、従来のインチキなリーンバーンだとあっちの排ガス規制を通らないから。乗った感じも、たしかにインチキなリーンバーンをやめたぶんだけヨカッタ。といって「これはいい!」ってほどステキでもなかった(たとえばアルファの2.0TSや2.0JTSあたりとは比較にならない駄エンジン)のでこの先頑張りましょう。 チーフエンジニア氏によると1.8(これは直噴じゃない)のMTが最高らしいんだけど、だったら入れてくださいよゼヒ。

 これがトヨタの考える〈ヨーロッパ風のアシ〉、ってことなんですかね。ちなみに、新型アヴェンシスを作るにあたって開発チームが操縦性や安定性のベンチマークにしたのはプジョー406とフォード・モンデオだったそうな。ま、それはいかにもアリガチ君。

 新型アヴェンシスの走りを、私はかなり個性的だなと思った。クルマが走ると当然ながら発生するところのロールその他各種の動きがほとんど抑え込まれてて、一方ゲンカイはイヨーに高い。で、それ意外にアジなりキャラなりと思えるようなものがなーんにもない。そういう走りのキャラをもったクルマは、ヨーロッパはおろか世界にないから。少なくとも、私の知るかぎりは。

 ゲンカイ領域を試したりしなくても、普通クルマの走りのキャラってのはちゃんとあるわけですよ。「あ、こういう風に運転してほしいわけね」って自然とわかるような。あるいは、「作った人たちのアタマのなかにある〈いい走り〉ってのはこういうものなのね」って想像つくような。

 横Gの高まりに対して平気でいられれば、あとは(ものすごく高い)ゲンカイまで平然とイケてしまう、というのが、おそらくトヨタの考える〈いい走り〉なんでしょう。〈いい走り〉がまずあって、それをキープしたままどこまで限界を高くできるか? っていう方向でおそらくヨーロッパのメーカーあたりは考えてクルマ作ってるんだと思うけど、その点トヨタはまったく逆、なんではないかと。いい走り、イコール限界が高いこと、みたいに考えてるのかなと。あとでチーフエンジニアの人に話聞いたら実際そうみたいなんだけど。アヴェンシスに関しては。

 たとえば新型ベクトラなんか、「どーしちゃったの突然!?」てくらい走りはイイ。というかキレイ。なんだけど、いわゆるゲンカイは必ずしも高くない。たとえGTSであっても。あるいはルノーあたりも、安心感はめちゃめちゃ高いけどやっぱり「ゲンカイ命」ではない。フォードあたりに近いっちゃあ近いのかもしらんけど(ちなみに最近でたフォーカスST170はめちゃくちゃサイコー!)、やっぱ独特ですよアヴェンシスは。

 見た目サエないオジさんがマラドーナばりのドリブルからシュートをキメちゃうとか、たとえばそういう感じのスゴさないしブキミさがアヴェンシスの走りにはあった。でそのサエないオジさん、めちゃめちゃ走ってゴールをキメた直後なのにキューイチ分けの髪形がまったく乱れてないぞ、みたいな。しかもガッツポーツしないぞオイ、みたいな。そういう「個性的」。ちょっとコワいでしょ?

 これが日本向けのドメスティックなトヨタ車だと、サエないオジさんであるのは同じでもドリブル→ゴールはキメられない。「たまんねえよなあこんなことさせられて」ってゼーゼーいって、社員運動会の課長状態ですよ。
 
 アテンザやレガシィは、そういう意味では個性弱いね。弱いというか、ヨーロッパの人らにとっても地続きの感覚で理解できちゃう種類のクルマだから。あるいはまた、新型アコードあたりはこんどのアヴェンシスにちょっと近いかもしれない。それともういっこ、いいたかないけどプリメーラはちょっとツラい。デキ、悪すぎで。欧州で作ってるヤツはまた違うのかもしらんけど。


走りは独特というかなんかブキミ

 新型アヴェンシスを作るにあたって、トヨタは現地つまりヨーロッパの自動車ジャーナリストの皆さんを積極的に抱き込んで、いやアドバイザーとしながら先行車両の段階からやってきたんだそうでございますよ。しかも、ヨーロッパのいろ〜んな道をバンバン走り込んで。アヴェンシスのブキミに限界高い(そしてクルマらしい動きがほとんどない)走りは、たとえばどっかのラリーのSSで使われてる道をブッとばしたりすると「運転していて身体が動かないんですごくラクです」(チーフエンジニア氏談)なんだって。なるほど。

 たとえばの話、ミッレミリアみたいな道をイヤでもトバしまくらないといけない状況になったとする。イヤなのに。で、そうした場合に使用機材がアヴェンシスだったら仕事はラクかもしれない。ラクというか、平然とこなせるでしょうよきっと。

 でも、それは楽しくはないと思う。きっと。実際、スパウザ小田原周辺でチョイ乗りした私の経験からしてもちっとも楽しくなかったしアヴェンシス。でも、考えてみたらトヨタはアヴェンシスを「運転して楽しいクルマです」とはいってなかった。ひとっことも。

 ダイナミック・セイフティの水準は高いです、っていうのは逆にめちゃくちゃあると思う。トヨタとしては。日本でも一部レーサー系ジャーナリストが自らのレゾンデートルとしているところの、あるいは暴走行為の正当化の理由ともしているところのダイナミック・セイフティ。そっち方面の人らは新型アヴェンシス、「素晴らしい!」っていうしかないと思う。逆に、「アジがない」とかいいやがったらブッ殺すぞみたいなことを私は考える。

 なんだけど、「でもこれホントに安全なのか?!」っていう疑問、クエスチョンとうよりはサスピションやダウトに近い種類の疑問が、アヴェンシスに関してはある。私のバーイ。

 ロールもそうだけど、たとえば旋回中にスロットルペダルを離すとクルマの描く軌跡が内側へ向くのは普通のことじゃないですか。クルマとして。逆に強く踏み込めば軌跡は膨らむとかも。そういうクルマの動きを可能なかぎり封じ込めようとしているところがアヴェンシスは独特というかブキミなんですね。

 私は別に、タックインを使って姿勢を変えてコーナーのエイペックス(笑)で舵角ゼロ、コントローラブル(笑)で楽しい、なんてどっかのカー●ラ(●で隠す場所が絶妙でしょ?)みたいな好みでモノをいってるわけでは全然ない。ただ、アヴェンシスみたいな方向で走りのスゴさを追っかけてくと一般の人々にクルマの運転というものをなんかヘンなカタチで認識させることになりはしないかなと。

 端的にいって、クルマが曲がるのとハンドルを切るのが完全イコールになっちゃうような錯覚をもたせかねないんではないか。「行く先はナビのみぞ知る」ではないけれど、とにかく進む方向はハンドル(だけ)で決める。


ブレーキ性能はポルシェと同格


一部の日本製トヨタ車と違って、車両感覚を攪乱したり運転中の集中力を削いだりするようなイヤ味のない、その意味ではフツーによい造形。使い勝手もトヨタらしく良好。あと、写真には入ってないけどシートのデキがよかった。これはハッキリ特筆点。なんでもジョンソン・コントロールズ・オートモーティフっていう会社が納入してるものらしいんだけど、こういうのって納入メーカーの能力によるところが大きいですから。あと、同じくそこのクセみたいなものが最後の最後まで残ったりもするし。タイヤと同じで。もちろん、今回は発注主=トヨタもすごい頑張ったんだろうけど。シートに関しては、レバーの操作性にちょっと改善の余地があるけどリクラインやハイトの調整がちゃんと無段階にできるところも加点要素(日本製トヨタ車は2°刻みの間欠)。あと例によってというか、日本メーカーのシートにしては前後ともヘッドレストの位置がよかったりする。

 ステアリング操作ってのは、本来はクルマの進む方向を決める唯一無二の手段ではないわけです。スロットルやブレーキなんかとあわせて、あくまでヨーイングをコントロールするためのひとつの手段でしかない。本来は。

 たとえば信号の四つ角をゆっくりゆっくり曲がるときだって、うっかりしてスロットルONのタイミングがちょっと早かったりするとイメージどおりにはクルマって曲がらないでしょう? その意味では、時速10kmでも“アンダー”は出るんです。いとも簡単に。ドライのターマックの上ならハンドル切り足せば(あるいは場合によってはそのままなにもしないでも)オッケーだけど、これがたとえばツルツルの氷上だったりしたらそれこそホンモノのどアンダーですよ。ツーッと。

 詳しくは知らないけど、たとえばテニスなんかでも最近はラケットがどんどんよくなったおかげで正しいフォームの重要性がどんどん低くなってるらしいですね。とにかく、ガットの張ってある面のどっかに当てさえすればボールはそれなりの勢いでネットの向こう側へ届きますよと。それでもヘタクソなりになんとかラリーが続いたりすればテニスは楽しいんだろうけど、でもクルマの運転はどうでしょうかね。

 ものすごく横Gの高い領域までシロートでもヘーゼンと走れちゃうクルマにシロートが乗るとどうなるかって考えると、これはおそらくチャレンジしたくなりますよ。どこまでイケるのか。で、めちゃめちゃ高いゲンカイを超えた途端にスパーン!とイキナリ破綻……はしないらしいですけどね。アヴェンシスの場合は。そもそも、異様に横Gが高まった時点で気がつくよな。普通。そういう常識が通用しなくなってる気もするけど。最近は。「この電子レンジに猫を入れたりしないでください」っていう、たとえばそういう感じで。

 あとアヴェンシス、操縦性のゲンカイ点を高めるべくひたすらひたすら努力を重ねてったら「あるところからタイヤが鳴かなくなった」っていう話は聞いて「へー」と思った。つまりアヴェンシス、スキール音が聞こえてきたから「このへんでカンベンしてやるか」っていうのは通用しない。どうやら。いい頃合いでカンベンさせてくんないわけですよ。クルマが。池野めだか式に逃げる、あるいは自分を納得させる余地がない。「なんですかアナタはその程度でもう終わりなんですか」みたいな感じで、「私は別にいいですけど仕事ですから」とかってスタスタ歩いて服着はじめて……ってナンの話でしょう。

 しつこいようだけど、私は別にクルマ(のタイヤ)をヒーヒーいわすのが「楽しい」っていってるわけではないですよ。ヒーヒーいわして楽しいときもモチロンあるけれど、ヒーヒーいわさないと楽しくないクルマを楽しいクルマとは思えない。そこへもってきて、アヴェンシスはヒーヒーいわすことすら容易でない。でも、ヒーヒーいわすことが全然できなくても楽しいというか充実感に溢れてるクルマはあるよなあ。

 操縦性方面に関してもうひとつ書いとくと、時速60kmでギリギリ曲がれるカーブの先でさらにRがキツくなっているコーナーでアヴェンシス以外の競合他車はどれも曲がり切れず飛び出したけどアヴェンシスだけはちゃんとハンドルで曲がっていけたそうです。舵でなんとかできる範囲を少しでも先まで拡げるってのは、それはもちろん大事ですわね。それとブレーキは、100km/hからポルシェが36Mとかで停止できるのに対してアヴェンシスは同じく37M。欧州の競合他車は40Mを超えて50Mに迫る距離を走らないと停止できないらしい。

いくつかのオモシロイ話題

 いやしかし長いですね今回原稿が。アクビしながら読んでる人いたらゴメンなさいね。とにかくアヴェンシスに対しては、私はかなりフクザツな気持ちを抱いたことでございますよ。「そらまあ、欧州マーケットにいま出すクルマとしてはこんぐらいできてないとねえ」っていう(その意味では認める)ココロが大いにある一方で、かつまた「こういうのでヨーロッパのメーカーのヤツらに一泡ふかせることがもしできたら痛快かもしれない」っていうのもある一方で、「うーん……」ていうのもまたね。考えさせられましたよ実に。

 その考えさせられた感じを少しでもアリアリとわかってもらいたくて原稿が長くなってるというのもあって。本当は、こんなくだくだしい走りの話ばっかじゃなくてオモシロイ話題がほかにもいっぱいあるんだけど。

 たとえばプレゼンで時速15kmとかのオフセット前突および後突のスローモーション映像を見せてもらったんだけど、これがスゴいの。衝突の瞬間ボンネットフードやトランクリッドがブワンと膨らむんだけど、それが元に戻っちゃう(実際のシーンを肉眼で見てるとナニもおこってないように見えるらしい)。で、「バンパーに繋がってる衝撃吸収部材だけ交換すればオッケーです」とかね。それでもって、いままで修理に3000ユーロかかってたのが1300ユーロで済むようになったり(前突のケース)、あるいは同じく2600ユーロが900ユーロに減ったりとか(後突)。

 あるいは、時速何km走行時か忘れたけど競合他車ではリフトが出てる状況でアヴェンシスだけは逆にフロントにダウンフォースが効いてますよとか。それとか、ユーロNCAPの衝突試験で至上最高のポイントを獲得して5つ★ですよとか(ただし獲得ポイントの記録に関してはその後ルノーのエスパス4に破られたのではないかと思う)。世界初のニー=膝エアバッグが装備されてますよとか。

 そういう、なんというかドライに結果が見える部分でがんがんノシていく。外様に対してきわめてガードの堅い欧州市場において、商売上これはひとつ有効な手段かもしれない。だから「それでやってみ」という好意的な、あるいは興味本意の気持ちもあるわけですよ。ブキミさを覚える一方で。

 たとえばディーゼルエンジンに関しても、2008年だかからいまよりトンでもなく厳しくなる排ガス規制はトヨタ的にむしろウェルカムだってんですね。つまり、かつて北米のマスキー法を前にして白旗上げずに戦って勝ったシビックのCVCCみたいな感じでむしろチャンスだと。現地のメーカーがお手上げなってるところで日本からやってきたトヨタだけがクリアしたら、これはガッツポーズですよ。ドライバビリティとか音や振動の素性のよさみたいな総合的というか単一の単純なテストで結果の見えにくい分野(これはトヨタ、苦手です)じゃなくて、規制をクリアできるか否かというものすごく一点突破なところで勝負できる。残業と徹夜で勝てる、いうまでもなくトヨタ(というかニッポン)大得意の分野。

自動車が進むべきひとつの方向なのかも・・・

 ランエボやインプレッサSTiはヨーロッパの一部の人らを喜ばしてるし、またごくごく普通に日本で売られてるのに近いフツーの日本車の多くはたぶん笑われている。さらに、レガシィやアテンザあたりは普通の欧州車に近い感覚で理解されている。で、それらとはまた違った日本車としてこんどのアヴェンシスは認知されるのかどうか。私がもしヨーロッパの人間だったら、ワケわかんないコワさを覚えるのはアヴェンシスだと思う。ただし、一部ジャーナリストの皆さんは開発中にアドバイザーとて抱き込まれちゃったりもしているわけだけど。

 あと最後に、あらためて痛感させられたのはこのクラス、にかぎらないけどクルマに対する買う人の感覚の違い。簡単にいって、ヨーロッパってクルマは安くない。だから買う側は真剣だし、当然のこととしてクルマの側も安くないモノとして作られている。この原稿の最初のほうで「アヴェンシス級は日本の感覚だとクラウン級のありがたみがある」って書いたのはつまりそういうこと。

 アヴェンシスの場合、日本に入る2.0のオートマは普通にポンドから換算すると280万円ぐらいになるらしい。ターボもついてない、たかだか147psとかの仕様なのに。ポンドが強いってことを考えても、これは安くない。もっというと、同じ2.0のオートマでレザーシートだのナンだのつけた仕様は同じくポンド換算で430万円とからだってんですから。

 なもんで、トヨタとしてはアヴェンシスの日本での値付けをどのへんに落としこむか相当悩んでいる。2.0NAの同クラス国産他車並みの、つまり200万円チョイの値段をつけたらショーバイにならないし、かといって300万円に迫る値札をドーンとつけるのもいかがなものかと。「あんまり安い値段をつけて同クラスの輸入車の市場を奪いさってしまっても……」なんていってる人もいたけれど、それはないですからご心配なく。モノとしての手応えの濃さというかありがたみみたいなことでいえば、アヴェンシスのそれは同クラス輸入車一般と同クラス国産車の中間あたりか。

 ところで私、アヴェンシスに対する全体的な印象として「日本で売ってるトヨタ車も全部こういう感じで作ってほしい」とトヨタの人にいったのでした。その言葉を撤回するつもりはいまもないけど、でも半分マジでGメーターというかGアラームはつけてもいいかもしれない。コンマ4Gぐらいでメーター盤上のどっかが赤く光るとか、そういうヤツを。おっかないことになりたくない人は、それが点いたらスロットルを踏む足を緩めるなり離すなりすればいいというね。

 ただ、世の中のクルマすべてがアヴェンシスみたいな走りになったら私はクルマ、というか運転がキライになると思う。少なくともいまよりは。でもしかし、これはこれで自動車という商品が進むべき(あるいは進まざるをえない)ひとつの方向ではあるのかもしれない。なんて無難にまとめてみたりして。

 とにかくアヴェンシス、機会あったらゼヒ乗ってみてください。買えとはいわんけど。「あんなもの、乗るだけ時間のムダですよ」っていわないところが、その他大勢のトヨタ車に対する場合とはかなり違うわけです。





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